シャボン膜のカメレオン現象


北海道札幌開成高等学校コズモサイエンス科課題研究物理班の生徒の研究です。


 ハンドソープで作ったシャボン膜を水平に置き、その上に食器洗い用洗剤を薄めた液滴を落とすと、シャボン膜の厚さが均一になり急速に薄くなる。シャボン膜の色が次々と変化するため、この現象を“シャボン膜のカメレオン現象”と名付けた。この現象が起こる原因について、シャボン膜の成分が落とした液滴の成分に置き換わることと、浸透現象が深くかかわっていることを突き止めた。

1.はじめに 

 水平なシャボン膜の上に水、牛乳、油などいろいろな液滴を落としてみた。すると洗剤の液滴を落としたときにだけ明らかに他と異なる変化が観察された。シャボン膜の一部の色がモヤモヤと変化するのである。

1.1 素材

 水平なシャボン膜の素材と、上から落とす液滴の素材をハンドソープ、シャンプー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤、シャボン玉用液など何種類もの洗剤の組み合わせで実験を行った。

ハンド(洗顔)ソープ

 ビオレu泡で出てくるハンドソープ(花王)

 キレイキレイ泡ハンドソープ(ライオン)

 せっけん泡のハンドソープ(ミヨシ石鹸)

 アロエハンドソープ(モリトク)

 Doveクリーミー泡洗顔(ユニリーバ)

シャンプー

 アジエンス(花王)

 TSUBAKI(資生堂)

 Soft in 1(ライオン)

食器洗い用洗剤

  チャーミーVクイック(ライオン)

 ジョイ(P&G)

 キュキュット(花王)

 ENJOY AWA'S(ロケット石鹸)

洗濯用洗剤

 アタックNeo(花王)

 トップNANOX(ライオン)

シャボン玉用液

 しゃぼん玉液(トイザらス)


1.2 実験方法

 内径6.5cmのアクリルリングにシャボン膜を張り、水平に保つためにほぼ同径の塩ビ管の上に乗せる。その上にマイクロピペットで液滴20μLを滴下する。

1.3 適した洗剤の組み合わせ

 シャボン膜と液滴に用いる洗剤の組み合わせによっては、変化が起こらないこともある。適した組み合わせの場合は、次の動画のような変化が起こる。

 この動画から分かるのは、液滴を落とすと、

  1. 厚さが均一になる(色が一色になる)
  2. 急速に薄くなる(色が次々に変化する)

ということである。この2つの条件を満たす現象を私たちは「シャボン膜のカメレオン現象」と呼ぶこととする。

 実験の結果、シャボン膜のカメレオン現象に適した洗剤は次の組み合わせであった。

シャボン膜

ハンドソープ

 「ビオレu泡で出てくるハンドソープ」(花王) 

液滴

食器洗い用洗剤

 「チャーミーVクイック」(ライオン) 


2.研究の目的 

 本研究の目的は「シャボン膜のカメレオン現象」がなぜ起こるのかを解明することである。

 つまり、「なぜシャボン膜の厚さが均一になるのか」ということと、「なぜシャボン膜が急速に薄くなるのか」ということの2点を解明することが目的である。


 この目的を達成するために、以下の実験では特に記述がない限り、「シャボン膜のカメレオン現象」が常に起こるよう、次のような条件で統一した。


 シャボン膜:「ビオレu泡で出てくるハンドソープ」を原液のまま使う。

 液滴:「チャーミーVクイック」をイオン交換法による精製水で10倍に薄める。

    マイクロピペットにより、20μL滴下する。

3.水平なシャボン膜について 

3.1 シャボン膜の分子レベルでの構造

 シャボン膜を作るには界面活性剤が必要である。界面活性剤は水になじみやすい「親水基」と、油になじみやすい(水になじみにくい)「疎水基」からできている。シャボン膜はこの界面活性剤分子が内側に親水基、外側に疎水基が向くように水をはさみ、整列した形になっている。


3.2 シャボン膜の色

 シャボン膜の上面で反射した光と、下面で反射した光が干渉してシャボン膜は色付いて見える。干渉の条件は次のようになる。

 ここで、文字の意味は次の通りである。

   n:シャボン膜の屈折率

   d:シャボン膜の厚さ

   θ:屈折角

   m:正の整数(1,2,3,・・・)

   λ:波長

 シャボン膜の色は強め合ったり、弱め合ったりする波長で決まる。つまり屈折率や屈折角が一定だと考えると、シャボン膜の色はシャボン膜の厚さで決まると考えて良い。おおよその厚さと色の関係は右図のようになる。

http://soapbubble.wikia.com/wiki/Color_and_Film_Thickness

3.3 シャボン膜を拡大して観察する

 液滴を落とす前のシャボン膜を拡大して観察すると、非常に小さな領域に分かれた様々な色が見られる。これは領域によって厚さが異なることを表している。

 右図のように界面活性剤の分子が何層にもなっていたり、ミセルと呼ばれる分子集合体などが膜の上に乗っていると考えられる。


 このようにでこぼこしているシャボン膜の表面が、どのようにして平らになり膜の厚さが均一になるのかを考える。

4.なぜ膜の厚さが均一になるのか

4.1 4つの仮説

仮説1-1「液滴がシャボン膜表面を掃除する」

 落とした液滴がシャボン膜表面の層構造やミセルを押し出し表面が平らになると考えた。

 押し出した後の液滴はまわりのアクリルリングから外へ流れていくと考えられる。または、外へ流れ出ずに最初の膜の上に新しい膜を作っている可能性もある。


仮説1-2「液滴がそのまま上に乗る」

 落とした液滴が膜上の層構造やミセルをバラバラにして、溶かし込むような形でシャボン膜の上に乗るのではないかと考えた。

仮説1-3「液滴が掃除した後、膜の中に入る」

 液滴を落とした後、急速に薄くなることを考えると、膜自体が何らかの変化をしている可能性がある。そこで、液滴が膜表面を掃除した後、膜の中に入るというモデルを考えた。また、層構造やミセルを溶かし込んでいる可能性も考えられる。

仮説1-4「液滴が新しい膜になっている」

 最初のシャボン膜は層構造やミセルも含めて、膜ごと新しい液滴に置き換わっていると考えた。

 仮説1-1〜1-4の検証を行いたいが、厚さが数100nmのシャボン膜がどのようになっているかを確かめるのは非常に難しい。例えば図ようにシャボン膜と液滴に色を付けられれば分かる可能性がある。しかし実際に絵の具、食紅、万年筆のインクなどで色をつけてみても、シャボン膜になるとそのインクで付けた色は無くなり、洗剤のみのシャボン膜と同様に干渉色による色の変化が現れる。また、シャボン膜の上に細かい粉(チョークの粉など)を乗せて膜の移動の様子を観察しようと試みたが、シャボン膜は粉の影響ですぐに割れてしまう。

4.2 液滴を何度も落とす

 シャボン膜に液滴を何度も落とす実験を行った。


 ②の滴下直後は厚さが一様ではない

 その後、徐々に色が変化し③の2滴目滴下直前では色が1色であるため、厚さが均一になっていることが分かる。

 ④の2滴目滴下直後は、落とした液滴が一面に広がることはなく、明確な境界線を作り左側に広がった。左右どちらも色が変化するが、右側と左側では異なる色である。つまり境界線の左右で厚さが不連続であり、どちらも急速に薄くなっていることが分かるのである。

 その後液滴を何度か落としているが、明らかに境界線ができ、リング全面が一様になることはない。色から判断すると、階段状に厚さが変化していることが分かる。

 20μLの液滴が底面の直径6.5cm(アクリルリングの内径)の円柱になったとすると、厚さは約6μmとなる。つまり、リングに広がるのに十分な量の液滴を落としているにもかかわらず、最初の1回だけした全面に広がらない。このことは仮説1-1や仮説1-2のように、最初のシャボン膜の上に液滴が乗ることで階段状の厚さの違いが作られるとは考えにくい。一面に広がるはずである。

 仮説1-3が正しいとした場合、何度も落とすたびに、液滴が広がった部分の膜の濃度は液滴の濃度に近くなり、濃度の差により境界線が生じると考えられる。ただし、仮説1-3の前半部分、まず膜表面を掃除する、ということについてはまだ説明できない。

 仮説1-4が正しいとした場合、左図のようになる。同じ濃度の液滴なので、境界はできずに混ざり合うと思われるが、実際は明確な境界線ができている。この仮説1-4では膜表面が平らになることは説明できるが、境界線ができることを説明できない。

4.3 大きな膜に液滴を何度も落とす 

 シャボン膜全体を大きくした方がより明確になると考え実験を行った。ハンドソープの原液で大きな膜を作るのは難しかったが、最初から大きな枠で大きなシャボン膜を作るのではなく、枠をゴムにしてシャボン膜を徐々に大きくすることで、大きなシャボン膜を作ることができた。

 アクリルリングの実験と同様に液滴を何度落としても、明確な境界線ができた。


 動画の一部について、解説する。

 右の写真の⑤の部分に着目すると、最初は紫色であるが、液滴を落とした直後(0.5秒後)、新しい膜に押されて緑色になっている。色から判断すると厚くなっていることが分かる。

液滴を落とす直前(0秒)

液滴を落とした直後(0.5秒後)


 しかしすぐに薄くなり、1.5秒後には紫色に戻っている。

 落とした液滴が作る新しい膜によって、隣の膜が押されて厚くなるということは、仮説1-4のように落とした液滴によって完全に新しい膜ができていると考えられる。

(1.0秒後)

(1.5秒後)


 本研究の目的の一つ「なぜシャボン膜の厚さが均一になるのか」については、仮説と実験に基づき、図19のようにシャボン膜に落とした液滴によって新しい膜ができるためであると考えられる。

4.4 2種類の洗剤の必要性

 何度落としてもカメレオン現象が起こるのであれば、最初のシャボン膜も同じ洗剤でよいのではないか、と考えられる。ところが、最初のシャボン膜としてハンドソープを使わないとカメレオン現象は起こらないのである。なぜ2種類の洗剤が必要なのかについては最後に検討する。

5.なぜ膜の厚さが急速に薄くなるのか

5.1 仮説2-1「張力によって薄くなる」

 一般にゴムなどの膜は周囲を引っ張ることで薄くなる。そこで、落とした液滴でできた新しい膜も周りから引っ張られることで、薄くなるのではないかと考えた。

 ハンドソープで作ったシャボン膜の張力が、落とした液滴でできた膜の張力よりも大きいと考えると、液滴でできた膜が引っ張られ膜が薄くなるという仮説である。

5.1.1. 張力の差を確かめる実験

 アクリルリングの中央部に緩やかに糸を張る。ハンドソープで枠全体にシャボン膜を作ると、中央の糸は緩やかなままシャボン膜の中央にある。

 左側の膜に液滴を落とすと、左側でカメレオン現象が起こり、中央の糸は右側に引っ張られた。


  糸が引かれたのではなく、左側に落とした液滴が糸を押したとも見えるので、次の実験を行った。

 この動画は今までとは逆に、まず食器洗い用洗剤でシャボン膜を作った。次にリングの部分にハンドソープを落とす。すると、ハンドソープを落とした側に、食器洗い用洗剤で作ったシャボン膜が引かれているように見える。

 つまり、前の動画と同様に、ハンドソープが食器洗い用洗剤を引いていると考えることができる。


 これら実験から、ハンドソープで作った最初のシャボン膜と、落とした液滴でできた膜の張力には差があるのは間違いない。

 しかし、カメレオン現象として最初の動画を見ると、落とした液滴でできた膜がリング全体に広がった後も、膜は薄くなり続けている。これは張力の差だけでは説明ができない。

5.2 仮説2-2「自ら薄くなる」

 落とした液滴でできた膜は、そもそも薄くなる性質を持っているのではないかと考えた。これを確かめるには、ハンドソープを用いず、落としている液滴(食器洗い用洗剤を10倍に薄めたもの)だけで膜を作ればよい。

 しかし膜はできたものの、薄くなる速さはきわめて遅いものだった。この時の膜が薄くなる主な理由は、水分の蒸発であると考えられる。

5.3 仮説2-3「水が排出される」

 シャボン膜はゴムなどの膜とは異なり、中に水や洗剤成分を含んでいる。これらが外に排出されれば膜は薄くなる。膜の構造は変わらずに、中の水や洗剤成分が外に排出されるためには、どのようなことが考えられるのか。

5.3.1 枠から流れ出す

 本実験ではシャボン膜を作るときの枠として、アクリルリング、ゴム、針金などを用いている。使用した枠の中で一番細い針金でも直径が0.38mmである。一方シャボン膜の厚さは厚くても数μmほどであり、明確に色づいて見えるときは数100nmである。つまり枠の直径はシャボン膜の厚さと比べて100倍以上ある。シャボン膜に対して枠は非常に大きいと考えて良い。このことから、シャボン膜の中の水や洗剤成分が枠の方へ流れ出すと考えてもおかしくない。

 ところが、ハンドソープでも、また液滴として用いている台所用洗剤で膜を作っても、急速に薄くなるような現象は観察できない。多少流れ出している可能性はあるが、カメレオン現象として定義したように急速に薄くなることはない。

5.3.2 シャボン膜が割れる?

 ここで改めて最初のシャボン膜と落とした液滴の間の境界について考えたい。シャボン膜表面には疎水基が向いており、落とす液滴も外側に疎水基が向いている。疎水基どうしは馴染みやすいのでシャボン膜上に液滴が乗ると考えるのが自然かもしれないが、今までの実験からカメレオン現象が起こるときには、シャボン膜が液滴の膜に置き換わると考えられる。

 シャボン膜のカメレオン現象が特定の洗剤の組み合わせの時のみ明確に起こるのは、洗剤に含まれる界面活性剤等の種類によって馴染みやすさの違いが現れるためかもしれない。

 通常、乾いた指でシャボン膜に触れるとシャボン膜は割れる。この割れるという状況と同じようなことが起こっていると考えた。

 シャボン膜上に液滴が落ちてくると、シャボン膜は液滴に押され“割れる”状態に近い状況になる。しかし疎水基はお互いに引き合うので、シャボン膜が液滴を引っ張り、液滴の新しい膜ができる。

 このように考えると膜が置き換わる仕組みに加え、明確な境界線ができる仕組みを説明できる。さらに水が排出される仕組みも説明できることが分かった。


5.3.3 浸透

 シャボン膜と液滴の境界は、界面活性剤分子の疎水基が向かい合っている形になる。

 この形と非常に近いのが細胞膜であることに気がついた。細胞膜の主成分であるリン脂質は親水性の部分と、疎水性である脂肪酸を2本持った分子である。その疎水性の部分が向かい合うように並んだ2重構造になっている。この構造とシャボン膜と液滴の境界線のモデルは非常によく似ている。

 さらに細胞膜は半透膜である。ということは、シャボン膜と液滴の境界も半透膜の性質を持っている可能性が十分にある。ただし、細胞膜が水を通すのはアクアポリンと呼ばれるタンパク質が膜中に存在するためである。カメレオン現象が起こるシャボン膜と液滴には高分子を含む多くの種類の成分が入っており、細胞膜と近い性質を作り出していると考えられる。このこともまた、シャボン膜のカメレオン現象が特定の洗剤の組み合わせの時のみ起こることと関係があると考えられる。

 カメレオン現象が起こるのは、ハンドソープを原液のまま使ってシャボン膜を作り、食器洗い用洗剤を10倍に薄めて液滴として滴下している。実際は多くの種類の界面活性剤が入っているので、単純に考えることは難しいかもしれないが、明らかに界面活性剤濃度の差がある。その差により浸透が起こっていると考えられる。


5.3.4 全面に広がっても境界線はあるのか?

 明らかに境界線が観察されるときとは異なり、滴下した液滴が全面に広がるとシャボン膜と液滴の明確な境界は無くなってしまう。しかし、リング付近をよく観察するとシャボン膜の成分が残っていると思われる。

 「1.3適した洗剤の組み合わせ」にある、写真①と⑭を拡大してみたのが左の写真である。液滴を落とす前の①でリングに付いている泡はカメレオン現象中も全く同じ状態のままで残っている。

 つまり、ハンドソープで作ったシャボン膜に液滴を落とすと、シャボン膜は割れるような形なるが枠にその成分が残る。そのシャボン膜に引っ張られて新しく膜になった液滴との間には境界線ができる。この境界線が半透膜のような性質を示し、液滴によってできた膜の水分を枠の方に排出し、急速に薄くなると考えられる。

 このことを確認するためにもう一つ実験を行った。

5.3.5 リング内にたこ糸で四角い枠を作る

 アクリルリングにたこ糸で四角い枠をつくり、それを同じたこ糸で四方から張った。そこにハンドソープでシャボン膜を作った。

 この膜を横から見ると、重力の影響で中央部分が下がっている。一般に水平ではないシャボン膜の場合、重力の影響で上が薄く、下が厚い膜になり、徐々に薄くなるため干渉縞が下がってくる。

 真ん中の四角い領域に食器洗い用洗剤を薄めた液滴を落とすと、その四角い領域の中だけでカメレオン現象が起こった。


 上の領域では一般的な状況と同じく徐々に干渉縞が下がっていることが分かる(写真白の矢印)。

 しかし右側の領域では真ん中の四角い領域に接している部分の膜が厚くなった(写真黄色の矢印)。

 真ん中の四角い領域がカメレオン現象により薄くなるにつれ、右側の領域の厚い部分が広がるのである。これは真ん中の四角い枠内の水などの成分が右側の領域へ移動したものであり、この移動の理由が浸透によるものだと考えられる。また、全方向に均等に排出されるのではなく、方向によって偏って排出されることが分かる。


5.4 2種類の洗剤の必要性その2

 以上よりシャボン膜のカメレオン現象が起こるためには、界面活性剤にさまざまな条件が必要であることが分かった。

  1. シャボン膜が安定して形成できる
  2. シャボン膜と液滴の2種類の界面活性剤の疎水基同士が馴染みやすい(境界線ができやすい)
  3. 疎水基同士が馴染んでできた境界線が、半透膜の性質を示す(アクアポリンのように水を通す物質が含まれている)

 つまり、シャボン膜のカメレオン現象が安定して起こるには、特定の洗剤の組み合わせが必要であることが分かる。

 ところが、「4.2 液滴を何度も落とす」と「4.3 大きな膜に液滴を何度も落とす」で示したように、2滴目以降は同じ洗剤を落としてもカメレオン現象は起こる。

 よく見てみると、どちらも落とした液滴が作る新しい膜は、枠と接しているのである。膜全体ではなく、膜の一部から水などの成分が排出されることが分かっているので、このような枠との接し方で十分シャボン膜のカメレオン現象は起こるのである。

6.どのように薄くなっていくのか

6.1 「RGB法」

 シャボン膜の色は、厚さを表していることから、動画から厚さの変化を解析できないか検討を行った。

 最初の動画において、シャボン膜の中央部分を1コマずつRGB値を読み取って、その時間変化をグラフで表してみることにした。

 液滴を落とした瞬間を時刻0[s]として、グラフにすると左のようになった。R(赤)、G(緑)、B(青)ともに、周期的に変化している。この方法は解析に使えそうだったので、今後「RGB法」と呼ぶことにする。


 RGB法の特徴は、次のとおりである。

  • 特別な装置を必要としない
  • RGB値を読み取るソフトと、その値をグラフ化するためのソフト(表計算ソフトなど)があればできる

6.2 RGB法による解析

 G(緑)のグラフを取り出して考察する。横軸が時間なので、右に行くほどシャボン膜は薄くなっていく。グラフには山と谷があり、山はG(緑)が強め合っていることを表しており、谷はG(緑)が弱めあっていることを表している。

 山の中で、最も薄いとき、つまり一番右側にある山をm=0とする。そこから厚くなる順にmを1ずつ増やしていくと、次に示す強め合う条件のmに該当する。

 高校の教科書には、右のように強め合う条件が載っている。ここにおおよその値を代入すると、mの値に対するdの値が求まる。


  求めたdの値を縦軸にして、グラフをかくと右のようになった。ほぼ指数関数になることがわかった。

 R(赤)、B(青)でも同様に解析を行うと、どちらもほぼ指数関数になる。

6.3 表面からの蒸発ではない

 シャボン膜表面からの蒸発で薄くなっていくとすると、シャボン膜の上面も下面も面積は変化しないので、一定の割合で薄くなっていくはずである。つまり、グラフは直線になる。しかし、明らかにグラフは直線ではない。つまり、蒸発ではなく、別の影響を考えなければならない。

6.4 モデルで考える

シャボン膜がどのように薄くなっていくのかを、次のようなモデルで検討する。

  1. シャボン膜を円柱として考える。
  2. 液滴を落としてΔt[s]後のシャボン膜の高さ(厚さ)をy+Δy[m]とする。(Δy<0)
  3. シャボン膜の側面から単位時間、単位面積あたりp[m^3]だけ溶液が排出されるとする。

 最初の式の左辺は、減少した分の体積である。右辺はシャボン膜の側面から出て行った溶液の量である。

 計算をしていくと微分方程式になり、それを解くと指数関数になる。

6.5 側面から排出されている

 動画からの解析結果と、モデルによる解析結果が同様であることから、側面から溶液が排出されていると考えて良い。このことは、「5.3 仮説2-3『水が排出される』」で示した事とも同様である。

7.洗剤の上のミルククラゲ

 これから紹介する「洗剤の上のミルククラゲ」という現象は、全くシャボン膜のカメレオン現象とは関係が無さそうだが、同じ事が起こっている可能性がある。

7.1 洗剤にコーヒーミルク(フレッシュ)を落とす

 食器洗い用洗剤の上に、コーヒーミルク(フレッシュ)を落とすと、拡大・縮小を繰り返しながら広がっていく。この現象については、原因は良く分かっていない。



 この現象を横から観察してみる。

 上から落としたコーヒーミルクは、洗剤中に沈む。沈んだまましばらく動かないが、ある瞬間、突然浮かんでくる。徐々に浮かぶのでは無く、突然浮かぶのはなぜなのか。


 ビーカーに最初に入っている食器洗い用洗剤は、水で薄めている。その結果、コーヒーミルク(フレッシュ)と密度がほぼ同じだと考えられる。

 ある瞬間に突然浮かぶのは、コーヒーミルクの密度が小さくなったからだと考えるのが妥当である。(周りの洗剤の密度が大きくなるとは考えにくい)

 密度が小さくなるためには、左の図のようにコーヒーミルク内に水が入ったと考えられる。

 コーヒーミルクは植物油脂が主成分(乳脂肪分では無い!)で、コーヒーに溶けるように、乳化剤(界面活性剤)がたくさん含まれている。

 左図のように、洗剤とコーヒーミルクの境界は疎水基が向かい合っている可能性がある。つまりシャボン膜のカメレオン現象で検討したとおり、細胞膜のようになっていて、水だけが移動していてもおかしくない。

8.まとめ 

 最初のシャボン膜が滴下した液滴の膜に置き換わることで厚さが均一になり、最初のシャボン膜と滴下した液滴の膜の間で、浸透により水などが移動することで膜が急速に薄くなっていると考えられる。