箔検電器の挙動がおかしい

箔から電子が飛び出し、ガラス表面を移動する


 この文章は、2011年北海道札幌開成高等学校の生徒が作成したものです。


1.要旨

 箔検電器を用いた実験は昔から高校の物理の教科書にも載っており,大学入試問題にもたびたび出題される。しかし,私たちが実験したところ教科書の記述とは異なる点が見つかった。今までは箔検電器におかしな挙動が現れると,人体が帯電している,箔検電器を置いた机が配電している,などと考えていた。しかし,いくつかの実験により,箔から電子が飛び出すことと,ガラス表面の導電性を考えることが重要であることがわかった。

2.研究目的

 授業で箔検電器の説明があり興味を持ったので,自分たちで実験をやってみた。最初は教科書の記述の通りであったが,実験を繰り返すうちに結果が説明できないものが出てきた。

  1. 箔検電器の金属板に直接帯電体を接触させると,箔が帯電体とは反対の符号に帯電する
  2. 発泡スチロールの上で実験をすると金属板を指で触れても箔が閉じない

教科書に載っている箔検電器の説明からは,このような挙動は考えられない。そこでいくつかの仮説を立て実験を行い,箔検電器の挙動と電荷の移動について考察を行った。

3.研究方法

3.1 箔検電器の原理

 例えば,塩化ビニルの棒を絹で擦ると塩化ビニルは負に帯電する。

 この負に帯電した塩化ビニルを箔検電器の金属板に近づけると,静電誘導により金属板は正に,金属棒を通って金属箔は負に帯電する。箔は静電気力により反発して開く。

3.2 実験1「箔が帯電体と異符号に!」

3.2.1 箔は帯電体と同符号に帯電するはず

 負に帯電した塩化ビニルを箔検電器の金属板に直接接触させると,通常箔は負に帯電して開くと考えられる。

 負に帯電していることを確かめるには,負に帯電した塩化ビニルを箔検電器の金属板に近づければよい。箔が負に帯電していれば箔はさらに開く。

箔は徐々に閉じる。さらに塩化ビニルを近づけると再び開く。

3.2.2 箔が異符号に帯電する!

 帯電体を金属板に接触させる実験を繰り返していると,ある時,箔が帯電体と異符号に帯電していることに気がついた。つまり,負に帯電した塩化ビニルを金属板に接触させたにもかかわらず,箔が正に帯電しているのである。

 さらに塩化ビニルと金属板を接触しなくても,かなり近づけると,箔が正に帯電することがあった。塩化ビニルと金属板の間で放電が起こり,その結果箔が正に帯電しているようであった。

3.2.3 仮説1「空気が電子を受け取る」

 箔が正に帯電するためには,正の電荷を受け取るか,負の電荷を放出するしかない。塩化ビニルは負に帯電しているので,箔を正に帯電させる要素は考えられない。他に箔に接触しているのは空気しかない。つまり箔にたまった電子を空気が受け取り,その結果箔が正に帯電すると考えた。

3.2.4 検証実験「空気の影響を無くす」

 アクリル製の真空デシケーターの中にガラス容器から取り出した箔検電器を設置し,空気の影響を小さくして実験を行おうと考えた。

 真空デシケーターを使用すると空気の影響は小さくなるが,真空デシケーター内の金属板に帯電体を近づけることができなくなる。


3.2.5 アクリルケースの影響

 真空にする前に真空デシケーターの外から帯電体を近づけたときに,中の箔検電器の箔が開くかどうか実験をした。すると,通常の実験と同様に箔が開いた。アクリルが障害物とはなっているが,外の帯電体の電場の影響が中の金属板まで届いていると考えられる。真空にしても目的の実験ができると判断した。

3.2.6 真空にして空気の影響を考える

 真空デシケーターの中はほぼ大気圧の10分の1になるまで空気を抜くことができる。その状態で真空デシケーターの外から負に帯電した塩化ビニルを近づけた。その結果,空気があるときと同様に箔が開き,負に帯電していることもあったが,正に帯電していることもあった。

 空気が非常に少ないときでも,空気があるときと同様の結果が得られたことから,空気が電子を受け取るという仮説は主要因では無さそうである。

3.2.7 仮説2「箔から電子が飛び出る」

 箔が正の電荷を受け取ることは考えにくいので,電子がどこかへ出て行くと考えるべきである。

 電子が飛び出しているとすれば,箔から飛び出していると考えるのが自然である。

 そこで,ガラス容器から内部を取り出し,箔が開いたときに,箔の先端の少し先に別の箔検電器の金属板が来るように配置して実験を行った。実験結果については4.1「実験1の結果」に書く。


3.3 実験2「発砲スチロールの上で実験」

3.3.1 箔検電器の基本的な実験

 絹で擦り負に帯電させた塩化ビニルを箔検電器の金属板に近づけると箔が開く(基本動作1)。次に塩化ビニルを近づけたまま金属板を指で触れると箔が閉じる(基本動作2)。これは,箔にたまっている電子が,指を通して触れた人の方に流れたためと考えられる。塩化ビニルは金属板に近づけたままなので,静電誘導のため金属板が正に帯電しているのは変わらない。

 次に指を金属板から離し塩化ビニルを箔検電器から遠ざけると,箔は再び開く(基本動作3)。これは金属板にたまっていた正の電荷が箔検電器の金属部分に広く散らばったためと考えられる。

3.3.2 箔が閉じない!

 箔検電器を発泡スチロールの上に置いて実験を行った。すると,箔が開いている状態で金属板を指で触れても箔が閉じないことがあった。通常このような箔の挙動は考えられない。

3.3.3 仮説1「人体が帯電している」

 金属板を指で触れて箔が閉じないということは,まず人体が帯電していることが疑われる。特に帯電体を擦って帯電させているので,人体が帯電していてもおかしくない。

 しかし箔検電器の箔が閉じないときには,帯電体を擦っていない他の人が金属板に触れても箔は閉じないのである。従って箔が閉じない原因が,人体が帯電しているため,というのは考えにくい。

3.3.4 仮説2「発泡スチロールが帯電する」

 次に発泡スチロールが帯電し,箔の挙動に影響を与えていると考えた。通常,発泡スチロールは擦ることで容易に帯電する。しかし,この実験では発泡スチロールと他の物質を擦ることはない。また最初から発泡スチロールが帯電していることも考えられるが,少なくとも箔検電器を置いた時点では箔は閉じたままである。発泡スチロールの帯電は箔が閉じない原因とは考えにくい。

 発泡スチロールの電気的な性質を調べてみると,抵抗率が非常に大きいということがわかった。そこで,発泡スチロールと同様に抵抗率の大きな物質として,パラフィンがある。箔検電器をパラフィンの上に乗せて実験を行うと発泡スチロールの時と同様に,金属板を指で触れても箔が閉じないことがあった。

 これは,発泡スチロールの抵抗率が大きいという面がこの現象の重要な役割であると考えられる。

3.3.5 箔検電器を2段重ねにする

実験を繰り返しているうちに,箔検電器の上に箔検電器を乗せるという実験を思いついた。

 上に乗っている箔検電器に対して負に帯電した塩化ビニルを金属板に近づけ基本動作1を行うと,上の箔検電器の箔は通常通り開き,下の箔検電器の箔も開いた。

 さらに基本動作2を行うと,上の箔検電器の箔の開きは多少小さくなるが,完全に箔が閉じることはなかった。この状態は発泡スチロール上での実験結果と似ている。また,下の箔検電器の箔は開いたままであった。次に基本動作3を行うとどちらの箔も開いたままになる。

 基本動作3の後でもどちらの箔も開いているのは,上の箔が負に帯電している影響で下の箔検電器の金属板が静電誘導で正に帯電し,その結果,下の箔は負に帯電して開くと考えられる。

 ところが,上の箔検電器を金属板の部分を持ってすばやく取り除くと下の箔検電器の箔は開いたままであった。この結果から,下の箔が開いているのは上の箔にたまった電荷の直接の影響では無い,と考えられる。

3.3.6 ガラスの性質

 2段重ねの基本動作3の後,上の箔検電器のガラス容器に触れてみた。するとなぜか下の箔検電器の箔が閉じた。今までの考え方ではこの現象も説明できない。

 そこでガラスの性質について確認した。ガラスは絶縁材料として用いられることもあるほど電気抵抗が大きい。しかし,今までの実験から電荷が移動していなければおかしい。考察結果については4.2「実験2の結果」に書く。

4.結果と考察

4.1 実験1の結果

4.1.1 検証実験「箔の先に箔検電器を置く」

 もし箔から電子が飛び出していれば,下にある箔検電器の箔が開き,さらにその箔は負に帯電するはずである。

 実験を行ったところ,予想の通り下の箔検電器の箔が開き負に帯電していた。また,上の箔は正に帯電していた。この実験から,箔から電子が飛び出していることは間違いない。さらに真空デシケーターの中でも同様の結果であった。

4.1.2 帯電体が正の場合

 負の帯電体を近づけたときに電子が飛び出すとすると,正の帯電体を近づけたときにどのようになるのか疑問に思い実験をした。

 負に帯電した塩化ビニルを用いた実験と同様に,正に帯電したアクリルを箔検電器の金属板に近づけたり,真空デシケーターの中での実験を行った。その結果,正の帯電体の場合も負の帯電体の時と同様に箔が異符号(この場合は負)に帯電することがあった。どこからか電子を受け取る必要があるが,これは箔の周りにある金属や空気,その他のものから電子を受け取ると考えられる。

4.2 実験2の結果

4.2.1 ガラスの表面を電気が流れる

 ガラスは一般的に絶縁体に分類されるが,大学の先生にガラスの導電性について伺ったところ,「ガラスの電気抵抗が大きいことは間違いないが,ガラスの中を電気が流れるのと比較して,ガラス表面は電気が流れやすいと考えられる。静電気の電圧の大きさによってはガラス表面に電気が流れる可能性もある。」とのことであった。

 そこで,発泡スチロール上の実験,箔検電器2段重ねの実験のどちらの実験も,机,ガラスなどの表面を電荷が移動すると考えた。すると今までの考え方では説明できなかった箔検電器の挙動について,説明ができるようになることがわかった。金属と同様とまではいかなくても,「今回の実験ではガラスには金属と差が無い程度に電気が流れる」と考えるべきである。実際に計算を行ったが,このように考えても良いという結論になった。

4.2.2 箔が閉じない理由

 「3.3.2 箔が閉じない!」にあるように,指で触れても箔が閉じないのは,ガラス部分にも静電誘導が起こり,箔とガラスの間に静電気力が働くことで,箔の部分の電荷の移動が起こらないと考えられる。もし,箔検電器の下が机であれば,ガラスと机の間で電荷の移動が起こり,電荷の偏りが打ち消されて箔が閉じる。

4.2.3 2段重ねの電荷の移動

「3.3.5 箔検電器を2段重ねにする」の段階では電荷の移動が説明できなかった。しかし,上のガラス容器表面の電子が下の箔検電器の金属板を通り,箔へ流れて下の箔が開く,と考えると右図の通り説明ができる。

4.2.4 ガラス容器に触れると箔が閉じる理由

 上のガラス容器と下の箔は電気的につながっていると考えることができるので,ガラス容器に触れると下の箔は閉じることになる。

5.結論 

 箔検電器の実験において,高校物理の教科書に載っている実験でも,教科書の記述とは異なる結果が得られることがあると考えられる。

 箔検電器の実験で注意すべきことをまとめる。

  1. 通常,負に帯電したものを金属板に近付けると静電誘導により,箔が負に帯電して開く。しかし,逆に箔が正に帯電して開くことがある。
  2. 箔検電器の実験ではガラス容器の導電性,箔検電器を置く場所の導電性も考える必要がある。通常の机上では問題はないが,抵抗率の大きな物質の上で実験を行うとガラス容器から下に電荷が移動せず,箔との間で静電気力が働き箔が閉じないことがある。